775年の宇宙放射線現象

名古屋大学の大学院生が、過去の宇宙線の飛来状況を調べるため、屋久杉の年輪を調べていたところ、西暦775年ころの部分に炭素14がここ3000年の間で突出して多く含まれていることを発見した。炭素14は、地球上に宇宙から大量の宇宙線が降り注いだ際に大気の窒素と衝突して生まれることから、この時代になにか大規模な宇宙現象があったことを示唆していることになる。この発表は、世界中で驚きをもって受け止められ、すぐに各国の学者が調査したところ、ヨーロッパでも樹木から炭素14が、南極の氷床からもベリリウム10が発見される。また、同時代の記録から、奇妙な天文現象が記されていることも判明した。
そこでこの謎の現象について、大きく3つの説が出された。
1つめが太陽系に比較的近い銀河系内で起きた超新星爆発説。
イギリスの古典アングロサクソン年代記の記録「日没後、空に赤い十字架、地に見事な大蛇が現れる」の赤い十字架は、超新星爆発の輝きではないか、というもの。しかし超新星爆発の痕跡天体である超新星残骸(例えば「かに星雲」のような天体)が今のところ見つかっていないのと、超新星爆発と見られる記録は中国や日本の古書にも時折見られるが、この時代に該当するものがない。
2つめがガンマ線バースト説。
ガンマ線バーストは超新星爆発やマグネター中性子星、天体衝突などによって大規模なガンマ線放射が起こる現象。超新星爆発の場合のエネルギー規模は数秒で太陽一生分に相当するし、天体衝突の場合、2秒以下の短い照射になる。これが地球を直撃した結果とも考えられる。しかし、宇宙全体ではガンマ線バーストは頻繁に起こっているものの、炭素14の計測結果からは、3000光年から1万2000光年という比較的近い距離で発生したと考えられるため、この範囲では数万年に1回程度の頻度となり、仮に発生しても、ガンマ線は星の自転軸に沿って狭い範囲でビームのように放出するため、それが地球にピンポイントで直撃する可能性は更に低くなる。
3つめの説が、現時点で最も有力視されている、大規模な太陽フレア(太陽表面の爆発現象)の発生説。
アングロサクソン年代記の「十字架と大蛇」はオーロラのことを指し、ドイツの修道書の記録「教会の上に燃え盛る2つの盾が現れ移動した」もオーロラを指しているとすれば説明がつく。人類が観測した最大のフレアである1859年のキャリントンのスーパーフレアでは、低緯度帯でもオーロラが観測され、真夜中でも本が読めるほど明るくなったという。そして太陽フレアは、発生頻度が非常に高い天体現象。しかし炭素14の計測量では、キャリントンスーパーフレアの10倍に達する規模が必要となるため、めったに起こらないと考えられる。また彗星が太陽に衝突したためにフレアが発生したという説もあるが、これもここまでの規模になると巨大な彗星が必要でめったに起きない。
いずれも、可能性はありえるが、確証が得られていない。そのため、原因を特定するまでには至ってない。
これほどの宇宙線の飛来現象が現代で発生した場合、世界中の電子機器の破損等により、文明に甚大な悪影響を及ぼすとされる。

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